ミュージカル『刀剣乱舞』十周年。始まった頃はまさかこんなに長く続く作品になるとは想像もしていませんでした。けれどトライアル公演の千穐楽を終え、出演者のみんなが「まだまだこんなんじゃダメだ！」と、思い描いていた完成形に届かなかった気持ちを爆発させたとき、私は大きな可能性を感じました。実際、自らの経験不足や力不足を認め悔しさをバネに研鑽を積んだ若き俳優たちは、その後数々の作品を生み出し、新たな仲間を迎えながらミュージカル『刀剣乱舞』が10年続くシリーズへとなっていく地盤を作ってくれたのです。

まずはこの節目の年をしっかり走り切り、「十周年」というクサビを刻み込みたいと思っています。大きな節目ではあるけれど、もちろんここで終わりではない。さらにその先に行くためにいろんな意味で一旦、この山を登り切りたい。そして登り切ったところからくだるのではなく、その先にまた高い頂があるのならば喜んで登って行きたい。だからこその節目。通過点ではなく、我々の歴史の句点をここにちゃんと残しておくのが私の使命だと感じています。それに、なによりもめでたいじゃないですか！ 十周年、奇跡ですよ。ひとつの作品がこんなに長くみなさんに愛していただいて、夏には東京ドーム！ 一体誰がそんなこと思いましたか？ 僕らで東京ドームだなんて。こんな嬉しいことが本当に起こるんですね。

僕らはいつもみなさんの期待に１００％応えられているわけではないかもしれません。でも「やっぱり次に期待しよう」と思ってくださったり、「もっと違う何かを観てみたい」と思ってくださる方がいてくれるお陰で、公演を続けることができています。一朝一夕ではなく、みなさんと一緒にしっかりと時間をかけて積み上げてきた十周年だからこそ価値があると思います。今までずっと支えてくださった方々、今年初めて参加してくださる方々、ミュージカル『刀剣乱舞』を愛してくださる全てのみなさんに心からの感謝を！
私もひとりの審神者として全ての審神者のみなさんと、このめでたさを分かち合いたいし、ありがとうを届けたいし、もう……みんなとハグしあいたい！っていう気持ちです（笑）。この１年間、ずっと祝福しあいたいですね。

演劇がとても素敵なのは「残らない」ことです。作った瞬間から消えていく……言葉も、音楽も、明かりも、今観たすべてがその瞬間になくなっていく。そして、なくなっていくからこそ残るべきものがちゃんと残っていくんです。僕は40数年間ずっと演劇をやってきていますが、作る側であると同時に、やっぱり演劇が大好きで、エンターテインメントが大好きで、観ることが大好きで、常に観客でありたいとも思っています。演劇やエンターテインメントは自分の人生にとって本当にかけがえのないものです。歳を重ねれば重ねるほど、出会うものが増えれば増えるほど、不思議と純度の高いものだけが残り続けている。それが生きる上でどれだけ支えになったことか──辛い時、寂しい時、もう絶望しかけていても、胸の中のどこかに何かフッと灯る小さな明かりがある。これはなんだろう？と思うと、自分が出会ってきたお芝居の風景であったり、登場人物の言葉であったり、その時の音や匂いだったりする。ミュージカル『刀剣乱舞』がそういう存在になることができたら、これ以上の幸せはありません。僕らの真価を問われるのはきっと今じゃなく、10年先、20年先、30年先、或いは100年先かもしれない。だから僕らは「今」を作っていると同時に「未来」を作っている、それはまさに刀剣男士のようだと、私は思うのです。

十周年の特別企画はまだまだこれからどんどん展開されると思いますが、みなさんと一緒に作り上げる企画も用意していますので、ぜひ参加していただきたいですね。その体験がみなさんの人生の大切な物語に、そしていつまでも残る小さなともしびとなることを、心から願っています。一度しかない十周年を共に楽しみ尽くしましょう。